【書評】『「一体感」が会社を潰す』に見る人の変化と「おもてなし」の必要性

書評

一体感が会社を潰す
「一体感」が会社を潰す
異質と一流を排除する「子ども病」の正体

秋山進著 株式会社PHP研究所 2014年3月発行

・強い仲間意識
・愛社精神
・忠誠心の強い部下
・あうんの呼吸
・明確な指揮命令系統
・厳格なルールとマニュアル
・スムーズな会議………

これらはすべて、「症状」だ。
「感染」を恐れる人材の逃亡が始まっている。

なかなかに刺激的な文句が帯に書かれているが、決して大げさなものではない。

これまで日本の社会で美徳とされていた事柄を、「症状」と切り捨てるその見方は従来の価値観に真っ向から立ち向かうものだが、これが見事に的を射ているのだ。

「子ども病」

それが、25年間にわたって30社以上のコンサルタント業を担ってきた筆者がたどり着いた1つの結論である。

人や組織が、あまりにも幼く、未成熟な「子ども」であること。そのことが、人の発展も組織の発展も阻害しているのではないかという仮説が「子ども」であることの事例やパターンとともに述べられているのだが、この内容が実によく納得できるものなのである。

すなわち、自分自身も、また自分がよく知っている組織にも全く持って当てはまる。

「自分がよく知っている組織」とはもちろん会社のことなのだが、本当にその通りだと思わされることばかり書かれていた。

本書で子ども病の「症状」として挙げられている15のパターンが以下である。

1.批評家ばかりの組織
2.「空気」に支配されている人たちの組織
3.「稼ぐ」ことを忘れた人たちの組織
4.仲間としか仕事をしない人たちの組織
5.忠誠心の表明を要求する上司がいる組織
6.全体最適より個別最適を優先する組織
7.必要以上に摩擦を回避する組織
8.よその部署の情報が流れてこない組織
9.例外対応ができない組織
10.議論のための議論で満足する組織
11.実現不可能な目標が設定される組織
12.権限と責任が不釣り合いな組織
13.優先順位がつけられない組織
14.反省しない、学習能力の低い組織
15.一流が排除される組織

組織全体に当てはまるものもあれば、組織を構成する人に当てはまるものもあるだろう。

本書の記述では、この15のパターンをそれぞれ「個人が子ども」「組織が子ども」「マネジメントが子ども」という3種類に分けているのだが、おそらくはどれもが「人」にも「組織」にも当てはまるものだろうと思う。

なぜなら、組織は人によって作られているからである。

そしておそらくは、サラリーマンの口からほとんど呪詛のようにして吐き出される愚痴や不満の数々も、これらの症状に基づいているものであろう。

それだけに、これら子ども病の「症状」に関する記述がそれほど多くなかったのは本書の残念な部分であった。

全体でおよそ200ページの中で、およそ70ページという分量により「症状」の解説が行われており、残りはその症状を治す、あるいはその症状にある組織の中でいかにして自らを「大人」とするかに残りのページが割かれている。

「子ども病」の正体に大いに興味を持ち、自分の属する組織に当てはまるところの多いことを感じた身としては、もう少し多くの症状解説をして欲しかった気持ちになるのである。

しかし、それは著者もわかっていてこれだけの分量にとどめているようにも思われる。

なぜなら、私だけでなくおそらく他の読者も感じるであろう「解説量の少なさ」は、自らが感じている不満の正体をそれにこじつけたいとの気持ちから生まれているものだからである。

そのことによって、自分の抱く不満に正当性があることを確認したいだけなのだ。

その気持ちもまた、子ども病の発する症状の1つなのであろう。権威ある誰かの意見に寄りかかることで自論の説得力とする方法は、要するに虎の威を借る狐のようなもので、親や先生の言うことを背景にして周りに何かを強要する子供の姿と同様であるからだ。

筆者はそれを踏まえた上で、子ども病の症状に関しては最低限の解説にとどめて、それ以外の部分ではその症状から脱却する考え方と方法論に的を絞って記述していると考えられるのである。

そこで記述されている方法論は、よくあるライフハックのような考え方と同じようなことを前提としており、すでにそうした内容を他の本なり何なりで知っている人にとっては、さほどの新鮮味を覚えるものではない。

しかし、子どもの組織と大人の組織の対比として掲載されていた1つの表は非常にわかりやすく、大いに役立つものであった。

それが以下である。

子どもの組織 大人の組織
組織の競争力の源泉 標準化力と同質性 専門技術力と異質性
組織の紐帯 一体感、仲間意識 ビジョン、目的、理念
個人 一人前の技術者
他者への気づかい
一流の技術者
会社の目標と自分の目標の統合
個人と組織の関係 所属 参加
個人間の関係 摩擦回避 摩擦が発展の糧
個人のモチベーション 社内的な地位
報酬
仲間内の楽しさ
社会での地位
仕事のやりがい
技術の向上
お客様の喜ぶ顔
判断基軸 ルール、マニュアル ビジョン、プリンシプル
マネジャーの仕事 わが社のやり方の実践
調整、根回し
ビジョンの設定
戦略の立案
摩擦の建設的活用
決断
マネジャーと個人の関係 管理監督 専門性の発揮と統合

 

上記の15個のパターンよりもこちらのほうがわかりやすいかもしれない。

自分のいる組織がそれぞれの部分においてどちらにあるか、おそらく一目瞭然であるだろう。

そして、子どもの組織のあり方が、見事なまでに従来の価値観で是とされてきたものであることもわかるだろう。

子どもの組織の側に共通するのは、問題や課題を棚上げしたり見ぬふりをしたり、あるいは短期的なその場限りでの対処をすることばかりだ。

それは長い目で見れば、組織内にひずみや歪みをもたらすものであることは想像に難くない。

そこでの長い目とは、これからの社会変化や産業、ビジネス構造の変化といった類のものだ。

長引く不況下で日本の企業が停滞するようになってきた原因や構造、その背景などを指摘する人が増えてきたが、その中には、従来の価値観に対して本書が子ども病の症状と断じる各状態を生み出した原因と捉える人が多く存在している。

すなわち、従来普通とされてきた価値観に対する抵抗する考え方と、またそれらに変容の兆しが実際にあることを示す考え方が各所で芽吹き始めているのである。

 

 

ここがヘンだよ日本人の働き方 成果が出ないのは「やる気」のせいじゃありません|高橋俊介|ダイヤモンド・オンライン

悪しき精神論がはびこる職場では、このような問題もすべて「やる気」のせいにされます。何事もモチベーションが足りないからうまくいかないのだと思い込まされ、精神論ばかりを吹き込まれるようになる。

 

 

「努力」についてまわる高度経済成長期の呪い | 熊代亨

 

「努力は必ず報われる」の残酷さは「報われないならそれは努力ではない」にある。

 

 

 

「新・ぶら下がり社員」症候群:もう昇進、昇給ではモチベーションは上がらない – 誠 Biz.ID

個人と組織は、もはや報酬や仕事内容だけで結びつけられる時代ではない。お互いの提供価値で結ばれる時代になってくるだろう。個人と組織がお互いに相互補完しあうことによって、個人と組織の双方の価値向上につながっていくのだ。

 

 

いま必要とされる人材の条件 他人の10倍稼ぐ、伝説のコンサルタントが教えるビジネスの法則【2】:PRESIDENT Online – プレジデント

これまでは、ミスをせず、与えられた仕事をこなす人材が求められていた。大量生産、大量消費の構図で売上が上がった時代は、それでよかったのだ。

でもいまは違う。みんなに物が行き届き、それなりに高機能なだけのものは、売れなくなった。

その代わり必要とされているのは、熱烈にファンを生むようなとがった商品、サービスを考えられる人だ。

 

 

それは、「社会」の入口となる新卒採用の部分においても同様だ。

大学卒業と同時にどこかに雇われることが正しいとするような新卒一括採用方式に対する違和感は、当然のことながら学生の方に多く存在することだろう。そのことに企業の方は気がついているだろうか。

 

 

「アウトロー採用」がもたらす、人と関わり、破壊され、進化する組織 “マネジメント”からの逃走 第2回:PRESIDENT Online – プレジデント

僕たちが窮屈な職業観から抜け出し、自分自身の育成や開発に楽しく前向きに取り組んでいくためには、「採る・採られる」ではなく、「関わる」「変わる」という人材採用や組織開発のあり方が必要なのではないでしょうか。

 

 

就活とは「自分が手伝いたい企業」を探すこと 定義を誤ると苦戦する | 企業インサイダー | キャリコネ

 

ある年、自社への入社を決めてくれた学生と話をしている時に、「入社先を決めた理由」を聞いてみました。その答えに私は驚きを隠せませんでした。

「内定をもらった企業の中で、私が一番お役に立てるのは御社だと思ったからです」

21歳の若者が真っ直ぐに目を見て語る姿に、私は感動すら覚えていました。この生き方には頭が下がります。彼の生き様が就活の意味を教えてくれました。就活とは「自分が手伝いたい企業探し」なのだと。

 

この2つの記事で言われていることはまさに、上記の表にある大人の組織に対する関わり方だ。すなわち、彼らは組織に対して所属するのではなく、参加することを望んでいるのである。

こうした考え方や行動を知った時、私が抱いたのは爽快感や納得感であった。それは私が現在抱いている違和感の裏返しとも言えるものであり、今後そうした考え方が当たり前になっていくことを期待せざるを得ないものであった。

このような変化の兆しは、多くの人にとってはまだ肌で感じることができるものではないかもしれない。
それゆえに、「ネットの中で何か言ってるだけなんだろう」という捉え方をしてしまうかもしれない。

しかし、変化を肌で感じとることが出来た時は、すでに手遅れだ。
肌で感じることができるとは、それほどにその変化から取り残されていると言えるからである。

東京オリンピック決定以来流行り出した「おもてなし」との考え方もまた、同じ文脈で考えることができる。

「わたし」を選んでもらう理由が必要なのだ。

モノもサービスも溢れる供給過多の状態で、いかにして顧客に自社の製品とサービスを選んでもらうか。

それが顧客満足としての「おもてなし」である。

そして、顧客に対する「おもてなし」を提供できる社員に会社にとどまってもらうこと、または顧客への「おもてなし」を十分に発揮・実践できる環境を作る点においての社員満足としての「おもてなし」だ。

そして、それを実現するためという意味においても「子ども病」からの脱却は重要である。

基本的に自分のことが優先となる子どもの状態で、誰かに対する「おもてなし」など期待できるはずもないからだ。

もちろん、根っからの悪人でどんな状況でも自分だけを最優先するような人はそうそういないとしても、しかし、困り果てた目の前の顧客のためにずっと付きっきりになるとか例外の対応をするとかいったことが果たしてどれだけの人にできるだろうか。

自分にそんな判断権限がないことや、独断で実行した後のお説教、自分がいなくなることによる同僚への迷惑などといったことを考えて、やむを得ずその顧客にはお引取りを願うことになるのが多くの判断であろう。

大人の組織であれば、判断権限の問題は何かの制度や仕組みが作られていて、また同僚たちも、迷惑などとは全く思わずに淡々と1人分の穴を埋める業務態勢となるだけなのである。

そのような大人の組織になるための方法論も本書には記述されている。のみならず、子どもの組織の中でいかに子ども病から脱却していくかについても触れられている。

帯に書かれた「経営陣、人事部の皆さん、若手に読まれる前にご一読を」とはそういう意味である。もちろんこちらからすれば、経営陣や人事部に読まれる前に読んでおきたい1冊だ。

本書を読んで、自分より年もキャリアも上であるはずの人たちがいかに「子ども」であるかを感じ取ることができるようになれば、そこから自らの「子ども病」からの脱却が始まることだろう。

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